実は、ムシバが深くなったり大きくなったりして、歯が強くしみたり痛んだりするところは、歯の”歯髄”(シズイ)といいます。骨髄バンクという言葉を聞かれた方もいらっしゃると思いますが、骨に骨髄があるのと同じです。俗に『シンケイ』といわれるところは、本当は神経繊維だけでなく、血管もあれば、リンパもあり、歯を作る細胞もあります。
『シンケイ』というといろいろ混乱を生じることがあります。例えば、歯髄を治療した後、よく歯医者が「今日は、シンケイをとりました」と説明します。ところが、麻酔が覚めてきたらシンケイがないはずの歯が俄然痛みだしました。シンケイをとったのに、どうして痛いんだろう?!との疑問がわきます。当然の疑問です。
理由はこうです。歯の神経繊維は歯から頭の知覚を感じる所までずっとつながっています。だから、断点付近に炎症があれば、「シンケイ」をとったとしても引き続き痛みます。感染がないと、ふつう二日くらいで、痛みが取れます。ところが、重篤な細菌感染があると痛みがもっと続いたり、治療の前よりも痛むことだってあります。
ここで『痛み』について補足しておきましょう。
ムシバの痛みはほとんどが炎症ですから、その部分の「圧」があがります。ちなみに、痛みが強いときに、歯髄腔をあけると、血液や膿(うみ)が湧き出て痛みが楽になることがあります。「圧」があがって痛みが強まると、バイキンが歯の内部奥深くはいり込んで歯の根の先の炎症がさらに悪くなり、こじれてきます。
そのため、わざと治療している歯の内部をあけておくこともあります。ただ、都合が悪いことに、お口の中は、バイキンがたくさんいるのであけっぱなしにしておくとそのバイキンが治療をしている歯の中に入ってしまいます。そのために、治療の前後には、緊密な仮封をしなければなりません。この相反することがらの折り合いを付けて、歯の内部のバイキンをなくすることが治療の目的になりますが、それがまた、この治療のむずかしさでもあります。昔からこの問題は、歯の治療の専門家や研究者を悩ませてきました。万全の治療をしたはずなのに、患者様から、『治療する前より急に痛くなった!!?どうしてくれんだ!!』という強いクレームを受けることです。アメリカのある有名な専門家は、「もし、自分は今まで1回も患者様からフレアーアップのクレームを受けていないという専門家がいたらそれはもぐりである」とすらいっているほどです。ここで、フレアーアップというのは治療後の急な痛みのことです。
ちょっと、横道でのみちくさが長くなりましたが、歯のシンケイの治療(正式には歯内療法、略して根管治療)の具体的なおはなしにもどります。